2020/3/6 名古屋ウィメンズマラソン2020
注目選手B前回日本人トップもMGCは大敗した岩出玲亜
練習パターン変更で前半のスピードにも対応

 3月8日に行われるMGCファイナルチャレンジ女子最終戦の名古屋ウィメンズマラソン。松田瑞生(ダイハツ)が1月の大阪国際女子マラソン優勝時にマークした2時間21分47秒を上回れば、東京五輪代表が内定する。
 前回の名古屋日本人1位(全体5位。2時間23分52秒)の岩出玲亜(アンダーアーマー)は、初マラソンを10代で経験。4年前(16年)の名古屋は3回目のマラソンで、リオ五輪代表を狙って出場した。だが、「次のオリンピックも考えていましたし、狙っていなかったわけではないのですが、今回ほど気持ちも高ぶっていなかったと思います」と、今日(3月6日)の会見で話した。
 若くしてマラソンを始め、今回の名古屋が10回目のマラソン。名古屋は6年連続出場となる。17年後半からは「プロランナー」(岩出)となり、昨年の名古屋で16年大会以来の自己新をマーク。終盤で福士加代子(ワコール)を逆転し、スタミナ型の岩出スタイルが完成したと思えた。
 だがMGCの大敗(完走者中最下位の9位)したことと、当初2時間22分台が当初必要とされたMGCファイナルチャレンジに臨むことがきっかけになった。岩出は自身のスタイルを大きく変えて、東京五輪代表選考最終レースに挑む。
岩出玲亜のマラソン全成績
回数 月日 大会 順位 日本人 記 録
1 2014 11.16 横浜国際女子 3 2 2.27.21.
2 2015 3.08 名古屋ウィメンズ 8 5 2.29.16.
3 2016 3.13 名古屋ウィメンズ 5 4 2.24.38.
4 2016 9.25 ベルリン 4 1 2.28.09.
5 2017 3.12 名古屋ウィメンズ dnf dnf 17km
6 2017 11.12 さいたま国際 5 1 2.31.10.
7 2018 3.11 名古屋ウィメンズ 4 2 2.26.28.
8 2019 3.10 名古屋ウィメンズ 5 1 2.23.52.
9 2019 9.15 MGC 9 9 2.41.22.

40km走の昨年と今年の違いとは?
 赤星一平コーチによれば、今回のマラソンに向けての40km走は2月半ばに1本しか行わなかった。
「去年も同じタイミングで40km走をしましたが、3分50秒(1km毎)で入って10km辺りで4分00秒に落ちて、2時間33分くらいかかったんです。それが今年は3分20秒で入って、(中盤は)3分45秒で押して行きました。2時間28分半くらいで走りきりましたね」
 岩出は実業団時代に、ゆっくり走り始める距離走しかしていなかった。他チームが速いペースで距離走を行っていることを情報として知っていても、「自分の中の基準から外れることができなかったのでは」と、赤星コーチを見ている。
 主催紙の中日新聞記事によれば、岩出も今回の練習で「タイムに関する自分の感覚が大きく変わった」と感じた。
 では、実業団時代から速いペースで練習していたら、絶対に上手く行ったのか。負荷の高い練習は諸刃の剣的なところがある。若い頃にスピードをやっておいた方が良い選手もいれば、若い頃はゆっくり走って年齢が上がってからスピードの負荷をかけた方が良い選手もいる。
 いずれにしても、今大会に向けての岩出は、2時間21分台を目指す1km3分20秒、5km16分40秒のペースへの準備をしっかりとしてきた。
持久系とスピード系の練習時期を入れ替える
 スピードに対応するためにトレーニングを大きく変更した点が、もう1つある。持久系の練習を行う時期と、スピード系の練習を行う時期を入れ替えたのだ。以前は先に持久系のメニューを多く行い(日本ではこちらが多数派)、レースが近くなるとスピード系のメニューを多く行っていた。
「今回は作り方をまったく変えてみました」と赤星コーチ。
「年末年始と30km、40kmをいっぱい入れていましたが、今回は1月まで、20kmまでの距離しか走りませんでした。2月に入って距離を伸ばして来て、2月中旬に40km走を1本行いました。以前は40km走を3〜4本行っていましたが、今回は1本だけです」
 狙いは明白で、スピードの要求されるマラソンに対応するために、まずはしっかりとスピードに慣れておくということ。そして今回この変更に踏み切れたのは、岩出が元々スタミナ型選手だからだ。
「昨年も距離走は過去一番少なかったのですが、自己記録を更新できました。スタミナ面のポテンシャルはあるので、スピードから入ってみようと話し合ったんです」
 昨年の最後の40km走と、今年の最初の40km走が同じ時期になり、同じ徳之島のコースで行ったため比較することが可能になった。
MGCの入りのハイペースがきっかけ
 岩出が練習パターンの変更に踏み切れた背景に、MGCの大敗があった。中日新聞の取材には「心の傷になっています」と答えている。
 しかし赤星コーチの分析では、MGCに向けては練習の流れがまったく良くなかった。名古屋ウィメンズで自己新を出したが、4月の本格練習再開のところで風邪を引いて合宿も取りやめた。5月の5000mは16分06秒.84かかり、その後のアルバカーキ合宿も不十分な内容になった。7月7日の函館ハーフマラソンは途中棄権した。
「ようやく8月10日くらいから走れるようになりましたが、実質的に3週間程度の強化期間しかとれませんでした。本人の中ではずっと頑張り続けていた感覚はあったかもしれませんが、8月10日までは継続した練習ができていませんでしたね」
 岩出の「心の傷」というコメントには、準備段階の不甲斐なさも含まれていたのかもしれない。
 だが、もう1つ確かなのは、MGCの入りのハイペースに対応できなかったこと。
 一山麻緒(ワコール)が最初の5kmを16分31秒と、暑さを考えたらかなりのハイペースで入った。優勝した前田穂南(天満屋)でさえ後半の方が3分05秒もペースダウンしたが、2位以下の選手はもっと落ち込みが大きかった。
 岩出は10kmで100 m近く後れ、20km手前で野上恵子(十八銀行)に抜かれてからは、途中棄権した上原美幸(第一生命グループ)を除けば最下位を走り続けた。持ち味の後半の粘りを発揮する展開に持ち込めなかった。
「最初にドカンと行かれたMGCで、(最初から行けないと今のマラソンは通用しないと)意識が変わった一番大きなきっかけだったと思います」
 ペースメーカーの設定タイムは明日(3月7日)のテクニカルミーティングで決まるが、1km3分20秒、5km16分40秒と予想されている。岩出がそのペースを余裕を持って走ることができれば、終盤に持ち味のスタミナが発揮できる。
 16分40秒ペースなら中間点は1時間10分20秒の通過。後半の落ち込みをマイナス1分にとどめれば2時間21分40秒で、松田が大阪で出した2時間21分47秒を上回る計算になる。


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